

2013.07.20
1 裁判所が免責を許可しないケースは、「破産法」という法律で具体的に定められており、これを「免責不許可事由(めんせきふきょかじゆう)」といいます。ただし、免責不許可事由に該当する行為があったとしても、直ちに免責が不許可になるわけではありません。
2 免責不許可事由は、おおまかに言うと、『著しく不誠実な行為』や『破産制度を悪用するような行為』です。このような行為をした人に対してまで、借金をゼロにすることを認めるのは、債権者にとって酷であり、社会の公平にも反するという考えに基づいています。具体的には、以下のようなケースが定められています。
3 代表的な免責不許可事由は以下のとおりです。
A 財産を不当に減少させる行為(財産隠しなど)(破産法252条1項1号)
・財産を隠したり、誰かに譲渡したり、不当に安い価格で処分したりする行為など
・具体例:預金口座の存在を隠す、所有している自動車を友人名義に変える、など。
B 著しく不利益な条件での債務負担や、信用取引による財産の処分(破産法第252条1項2号)
・いわゆる「クレジットカードの現金化」が典型例です。商品を購入する意思がないのにクレジットカードで商品を購入し、それをすぐに安い値段で業者に買い取ってもらい現金を得る行為など。
C 特定の債権者にだけ返済する行為(偏頗弁済:へんぱべんさい)(破産法第252条1項3号)
・友人や親族、特定の金融機関など、一部の債権者にだけ優先して返済する行為です。破産手続では、全ての債権者を平等に扱わなければならないという原則(債権者平等の原則)に反するため、問題視されます。
D 浪費やギャンブルによって著しく財産を減少させ、または過大な債務を負担したこと(破産法第252条1項4号)
・実務上、最も問題となりやすい免責不許可事由です。
・具体例:収入に見合わない高価な買い物を繰り返す、パチンコ・競馬・FXなどで多額の借金を作る、過度に高額な飲食を繰り返す、など。
・「どの程度から浪費になるか」は、その方の収入や資産状況、借金の総額などから総合的に判断されます。
E 返済できないとわかっていながら、それを隠してお金を借りる行為(詐術による信用取引)(破産法第252条1項5号)
・収入や他の借金の状況について嘘をついて信用させ、お金を借り入れた場合などです。破産申立ての直前に、多数の金融機関から借り入れを行うようなケースも、これに該当する可能性が疑われます。
F 裁判所や破産管財人への説明義務違反・虚偽説明・業務妨害(破産法第252条1項8号,9号)
・破産手続が開始すると、裁判所や破産管財人から、財産や借金の経緯等について説明を求められます。この調査に協力しなかったり、嘘の説明をしたりすると、そのこと自体が免責不許可事由となります。
G 過去7年以内に免責許可決定が確定したこと(破産法第252条1項10号イ)
・短期間のうちに何度も自己破産による免責を認めるのは妥当ではないという趣旨の規定です。
4 上記の免責不許可事由に該当する行為があったとしても、多くのケースでは最終的に免責が許可されています。これを「裁量免責(さいりょうめんせき)」(破産法第252条2項)といいます。これは、裁判所が、破産手続に至った経緯や、本人の反省の度合い、手続への協力姿勢など、あらゆる事情を考慮して、「免責を許可するのが相当である」と判断した場合に、裁判所の裁量によって免責を許可する制度です。
5 裁量免責が認められやすいと思われるケース
以下のような事情がある場合、免責不許可事由があったとしても、裁量免責が認められる可能性が高まります。例えば、借金の原因がギャンブルであったとしても、その事実を正直に申告し、ギャンブル依存から脱却しようと努力し、破産手続きに誠実に協力すれば、多くの場合で裁量免責が認められています。
◯ 免責不許可事由の程度が軽微である
例:浪費の金額が借金全体のごく一部である
◯ 破産手続に誠実に協力している。
例:裁判所や破産管財人からの質問に正直に答え、求められた資料をきちんと提出している
◯ 深く反省し、経済的な更生の意欲を示している
例:家計簿をつけるなどして生活態度を改め、二度と借金を繰り返さないという強い意思を示している。
◯ 破産管財人による調査に全面的に協力し、管財人から「免責を許可するのが相当」という意見が出されている。(管財事件の場合)
6 免責不許可になる可能性が高いケース
以下のような場合は、裁量免責も認められず、免責が不許可となる可能性が高まります。特に、財産隠しや虚偽の申告といった、破産制度の根幹を揺るがすような不誠実な行為に対しては、裁判所は厳しい判断をする傾向にあります。
◯ 免責不許可事由の内容が悪質かつ重大である。
例:財産を計画的に隠した
◯ 裁判所や破産管財人に嘘をついたり、調査に協力しないなど、態度が不誠実である。
◯ 免責不許可事由(浪費など)について反省の態度が見られない。
7 実務上は、免責不許可事由があるケースでも、「裁量免責」によって多くの方が救済されています。大事なことは、依頼した弁護士にすべて正直に話すことです。たとえ、ご自身で「これは浪費かもしれない」「友人にだけ返してしまった」といったご心配な点があったとしても、それを隠さずに弁護士にご相談ください。正直にお話しいただくことで、弁護士は、裁判所や破産管財人に対して、あなたの反省の意や更生の意欲を十分に伝え、裁量免責を得るための最善の方策を一緒に考えることができます。
